アルコールがもたらす病気
お酒の飲み過ぎは死亡率を上昇させます。がんに対しては飲めば飲んだだけ、発症する確率を高めると考えられています。一部の疾患(虚血性心疾患、脳梗塞、2型糖尿病など)では適量の飲酒でリスクが軽減すると考えられていますが、様々な病気全体への影響を考えると、飲まないことが最も健康への悪影響は少ないと考えられています。
アルコールは多くの臓器にダメージを与え、以下のような多くの病気を引き起こします。
- 脳(アルコール依存症、認知症、うつ、不安障害、ウェルニッケ脳症)
- 心臓(高血圧、不整脈)
- 喉・食道(口腔がん、咽頭がん、食道がん)
- 大腸(大腸がん)
- 肝臓(アルコール性肝硬変、肝臓がん)
- 膵臓(糖尿病、膵炎、膵がん)
男性よりも女性の方がアルコールには弱く、少ない量でも身体にダメージを受けやすいことが知られています。
アルコール依存症とは
アルコール依存症は、心身に有害な飲酒をやめようと思ってもやめられなくなる病気です。飲酒欲求に対するブレーキが壊れてしまった状態であり、最も確実な治療方法は生涯断酒を継続することです。
アルコール依存症は進行性の病気です、誰でもかかる可能性があります。アルコール依存症は「否認の病」とも言われ、周囲の人からは明らかに問題のある飲酒行動をしていても、自分にはアルコールの問題はないと考えることが多いです。
アルコール依存症ではご本人の心身に大きな障害が起こることはもちろん、家族や周囲の人にも大きな負担が生じることが特徴です。
アルコール依存症のスクリーニング検査:AUDIT
飲酒関連の問題がある場合、まずAUDIT(オーディット)などのスクリーニング検査を実施します。AUDITは10の選択式の質問からなります。
AUDITの結果 | 判定 |
0~7点 | 問題飲酒ではないと思われる |
8~14点 | 問題飲酒ではあるが、アルコール依存症までは至っていない |
15~40点 | アルコール依存症が疑われる |
15点以上の場合にはICD-10によるアルコール依存症の診断を行います。
14点以下であっても、家族や関係者から得られる情報を考慮し、飲酒に伴う身体的・精神的問題や社会的問題、家庭問題が生じている場合はICD-10による診断を検討することが一般的です。
AUDITはご自身で実施できるサイトもあります。
アルコール依存症の診断(ICD-10の診断基準)
アルコール依存症の診断はICD-10という診断基準に基づいて行われることが一般的です。具体的には以下のような基準となっています。
以下のうち3項目以上が、1カ月以上にわたり同時に生じていたか、あるいは持続期間が1カ月未満
であれば、過去12カ月以内に繰り返し同時に生じた場合にアルコール依存症と診断されます。
1 | 渇望 | 飲酒したいという強い欲望あるいは切迫感 |
2 | 飲酒行動の コントロール不能 | 飲酒行動(開始、終了、量の調節)を制御することが困難 |
3 | 離脱症状 | 断酒や節酒による離脱症状の出現、離脱症状の回復、軽減のた めに飲酒する |
4 | 耐性の増大 | 当初得られた酩酊効果を得るために、飲酒量が増加する |
5 | 飲酒中心の生活 | 飲酒のために、本来の生活を犠牲にする、飲酒に関係した行為や、 アルコールの影響からの回復に費やす時間が増加する |
6 | 有害な使用に対する 抑制の喪失 | 心身あるいは社会生活・家庭生活に問題が生じているにもかかわ らず、飲酒を続ける |
アルコール依存症の治療
アルコール依存症では精神科(こころ)および内科(からだ)の両面から治療をする必要があります。
アルコール依存症の治療は断酒が原則です。以下の場合には減酒が目標となることもあります。
- 軽症の依存症で明確な合併症を有しないケースでは、飲酒量低減も治療目標になりうる。
- 断酒を目標とすべきアルコール依存症患者さんで断酒の説得に応じない場合は、中間的な選択肢として飲酒量低減を目標とする
断酒、減酒いずれにおいても心理社会的治療が根幹であり、これに薬物治療を併用する場合もあります。心理社会的治療としては、認知行動療法、集団精神療法、動機づけ面接法、家族療法などの手法があります。
薬物治療としては断酒を目標とする場合には、嫌酒薬(ジスルフィラム、シアナミド)、断酒補助薬(アカンプロサート)が使用されます。減酒を目標する場合には、飲酒量低減薬(ナルメフェン)が使用されます。
当院では減酒を目標とした治療を行っております。断酒を目標とすべき場合は、アルコール依存症治療の専門機関をご紹介させて頂いております。
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