注射の痛みは誰もの悩みです。例えばお子さんの予防接種は大変です。大泣きしたり、暴れまわったり、親御さんの苦労も大きいです。大人でも注射が苦手という人はたくさんいらっしゃいます。
注射の痛みと一口にいいますが、注射前の痛み(苦痛)、注射中の痛み、注射後の痛みに分けられると思います。注射中の痛みは (1)針を刺される痛み、(2)薬液を注入される痛みに分けられるでしょう。以下に注射に関連する痛みを表に整理してみました。
注射前の痛み | 過去の注射の痛みの記憶と再度の痛みの予期による心の痛み |
注射中の痛み | (1)針を刺される痛み (2)薬液を注入される痛み |
注射後の痛み | 痛みの記憶の想起による心の痛み 注射の合併症や後遺症による体の痛み |
注射の痛み、どうすればなるべく減らすことができるでしょうか。ここでは主に注射中の痛みについて対策を考えてみたいと思います。
針を刺される痛みを減らす
麻酔のテープを使用する
テープ型の皮膚に貼る麻酔薬があります。ペンレステープとエムラパッチが代表的な製品です。両者の違いはざっくり言えば、エムラパッチの方が鎮痛効果は強いが、副作用の可能性も高く、価格も高いということになります。ペンレステープで十分ならペンレスで、それでは不十分な場合にエムラパッチというのが合理的な使い分けになるでしょう。違いを表にまとめました。
ペンレステープ | エムラパッチ | |
成分 | リドカイン18mg | リドカイン25mg + プロピトカイン25mg |
大きさ | 30.5×50.0mm | 約60mmx70mm(薬液を含む部分 直径約35mm) |
重大な副作用 | ショック、アナフィラキシー(頻度不明) | ショック、アナフィラキシー(頻度不明) 意識障害、振戦、痙攣(頻度不明) メトヘモグロビン血症(頻度不明) |
用法・用量 (保険の場合) | 1.静脈留置針穿刺時の疼痛緩和 1回1枚、静脈留置針穿刺予定部位に約30分 間貼付する。 2.伝染性軟属腫(水いぼ)摘除時の疼痛緩和 通常、小児には本剤1回2枚までを、伝染性軟属腫 摘除予定部位に約1時間貼付する。 3.皮膚レーザー照射療法時の疼痛緩和。 通常、成人には本剤1回6枚まで、小児には年齢によって規定された上限枚数までを、レーザー照射予定部位に約1時間貼付す る。 | (成人)通常、成人には、レーザー照射予定部位又は注射針・ 静脈留置針穿刺予定部位に 60 分間貼付する。なお、 1 回あたりの貼付枚数は 10 枚までとし、貼付時間 は 120 分を超えないこと。 (小児) 通常、小児等には、レーザー照射予定部位又は注射 針・静脈留置針穿刺予定部位に 60 分間貼付する。 なお、1 回あたりの貼付枚数は 10 枚までとし、貼 付枚数及び貼付時間は年齢、体重によって上限が規定されている。 |
製造販売元 | 日東電工株式会社 | 佐藤製薬株式会社 |
添付文書 |
注射の痛み防止に麻酔のテープを使うデメリットもあります。
- 副作用の危険性がある(非常に稀ではありますがアナフィラキシーは生命の危険があります)
- 注射前の数十分貼付が必要なため、麻酔薬をもらうための来院回数が増える。
- わずかですが費用がかさむ。
予防接種(ワクチン)やプラセンタ注射など、薬液を皮下や筋肉に注射する痛みは十分には取りきれません。静脈に薬液を注射する場合は通常痛みませんので、麻酔テープ薬でほぼ無痛を達成できることもあります。
注射部位を冷やす
麻酔テープより手軽な方法としてアイスパックで注射部位を冷やす方法もあります。麻酔テープほどの鎮痛効果は期待できないにしても、手軽に大きな副作用もなく試すことができる方法です。注射後の痛み対策になりますが、予防接種などで腫れや痛みが出た箇所を適度に冷やすこともよく行われます。
細い針(極細針)を使用する
なるべく細く、短い針の方が、針を刺す痛みは小さくなります。通常の予防接種で使用される針は25G~27Gという太さの針です。G(ゲージ)は針の太さを表す単位ですが、数字が大きいほど細い針となります。一般に細い針の方が長さも短くなります。
予防接種などの皮下注射で使う針の太さは病院によって異なりますが、22~27くらいを使用することが多いようです。志木ファミリークリニックではなるべく細い方がいいだろうという考えから通常27Gを使用しています。
この他に特殊で高価な針となりますが超極細針とでもいうべきものもあります。例えばJBPナノニードルという製品では25Gから34Gまでの針をラインナップしています。顔面への美容注射などに使用されることの多い製品ですが、ワクチン注射などに使用することも可能です。
一見素晴らしく思える極細針なのですが、限界やデメリットもあります。
- 薬液を注入される痛みは減らない
- 薬液の注入に時間がかかる
- 針の値段がかなり高い
薬液の注入に時間がかかるのは小児の場合、かなりのデメリットではないかと思います。お子さんは注射中に動き出してしまって大変危険な場合があります。この危険を回避するには素早く注射を終わらせてしまうのがベストです。細い針からはゆっくりしか薬が出ませんので、どうしても注射に時間がかかってしまいます。
薬液を注入される痛みを減らす
薬液を注入される痛みは、皮下や筋肉内などの組織内に薬液が入ることで感じる痛みです。静脈内の場合は通常痛みはないことが多いです。注射の痛みというと針を刺される痛みを連想される方が多いかもしれませんが、実はこの薬液を注入される痛みもつらいものがあります。まず針を刺される痛みはほんの一瞬ですが、薬液は数秒程度かけて注入されるため痛い時間が長いです。そして針を刺される痛みよりコントロールが難しいです。
ゆっくり薬を注入する
ゆっくり薬を入れた方が痛みが耐えやすいという声があります。一方で注射されている時間は長くなりますので、素早く注入してもらった方がいいという意見もあります。
薬液に麻酔薬を混ぜる
薬液に麻酔薬を混ぜてしまうことで鎮痛をはかる場合もあります。注射後の痛みを抑えることに関してはこの方法は大きな効果を期待できます。一方で麻酔テープよりも副作用の危険性が大きいです。また通常の予防接種程度の注射であれば注射中の痛みの軽減効果はあまり期待できないでしょう(麻酔が効くまでには時間がかかるため)。
針を刺される痛み+薬液を注入される痛みの両方を減らす
気をそらす
心理的なテクニックになりますが、特に小児の場合、気をそらせることが有効です。注射の痛みは、注射について考え、注射されると予感する恐怖感によって大きくなっていくように見えます。ケースバイケースだとは思いますが、あまり考える暇を与えず、素早く終わらせてしまった方がスムーズに終わる場合が多いように感じています。
結論として
注射の痛みを減らすいくつかの方法について考えてきましたが、どの方法もメリッ/デメリットがあります。痛みの感じ方には個人差も大きいです(針の痛みは割と耐えられるけれど、薬液が入る感覚が嫌いとか逆とか)。医師と相談して頂き、ご自身にあった方法を見つけられるとよいと思います。
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